ドガ・ダンス・デッサン

ことばにする練習帳 @hase_3sec

2020年01月12日の10分とすこし

日記を書く事にしようと思ったのは124日前のことだった。それ以来日記は一度も書いていない。またやりもしないことをやると言ってしまったじぶんに自己嫌悪している。「日記を書く」と書いた日からずっと自己嫌悪し続けている。日記を書くということを嘘にしたかったわけでもなく。日記に書く内容を決めて、どういう風に文章に起こしたらほんとうの事になるのか考え続けていたら、書くのであればすこしでも(じぶんにとって)意味があるものにしないと、なんて考え始めてどんどん気分が重くなって、ちびちびと下書きしたり肉付けしたりした文章の切れ端をメモ帳に書いたり留めたりして124日経っていた。浦島太郎かもしれない。そんな124日経った今朝何気なくいつものようにSNS(と書くがこれはtwitterのこと)を眺めていると「”書けば面白いものができる”より”毎日10分文章を書く”という目標の方が難しい」(要約)というある作家の言葉を見かけて、そうだなと思った。ほんとうにそうだなと思った。いつも思っていることも改めて他人の言葉の形になると胸に刺さる。思いっきり。わたしの毎日はおもしろいことがそんなにない(わたしはおもしろいといつも感じているが他人に話すまでのことではない)ので、日記も一ヶ月に一度か二度でいいかしらと考えていたけれど、毎日何かを書いてみたいと思った。仕事をしてるだけの日や何もない日や何もしない日もあるので、1日10分だけ。気分が乗ればそれ以上。ストップウォッチを片手に。この文章を書いている今は書き始めてから16分です。とても長い序文。

 

2020/01/12

朝9時に起きる。9時とすこしにモーニングコールが鳴る。寝ぼけた声はテンションが低めでわたしがすこし笑っても笑い返してくれなくてなぜかそれが可笑しかった。待ち合わせの時間から逆算して二度寝できるなと思ったから二度寝した。9時半に起きるつもりが45分だった。慌てて歯を磨いて化粧をして服を着替えて家を出る。ニットとジーパンとコートと靴の素材の感じが全部バラバラで駅へ向かう途中ものすごく恥ずかしくなる。服をカッコよく着こなすことができない。今日も。電車に乗っている間は昨日見たblank13のことを考えていた。blank13の主題歌がとても気に入っていて何度も聞く。何度も。「キッチンにはハイライトとウィスキーグラス どこにでもあるような家族の風景」という歌い出しに、そんなわけあるかと聞きたくなったが、そういえばわたしの家はケントと赤い灰皿と焼酎をいれるガラスのコップだった。日本酒だったかもしれない。不和の家庭を描く邦画が好きだ。そういう映画の主題歌は大体好きになることが多い。落ち着いた声にゆったりとしたテンポ、鋭いわけでも鈍すぎるわけでもない歌詞。大体と言ってもサンプル数は今のところ3しかない。

 

浅草駅に着く。最初に1人と合流して、あとから2人も合流して4人になった。人の波に流され流され浅草寺へ。賽銭箱の前はベルトコンベアーのようでお金を投げた人から立ち去っていきお金を投げて立ち去る。今年の目標も祈りも感謝も挨拶も全部それどころではなかった。でもおみくじを引くからいい。おみくじを引くと大吉だったが各運気の項目が省略されて「油断すると災いアリ」と注記されていた。わたしの他に2人大吉を引いた人がいたのに特別な忠告のあるおみくじを引いたのはわたしだけだった。ここ数年はおみくじを引くたびに「慢心するな」「調子に乗るな」と書かれていてその度に心が引き締まるがたまにはわたしを手放しで気分良くしてくれてもいいんじゃないかとも思う。

 

夜。友達と会う。去年の夏以来会っていなかった。近況を聞いたり話したり話したりする。ちょっとして、転職はしないのかと聞かれる。会社に勤め始めて5年ほど経ってくると、会社の同期や友達が転職の雰囲気(と言えばいいのか?)に慣れてくる頃合いで、同年代の人と話していると、3回に5回くらい転職の話になる。今の仕事でつらいことも苦しいこともごく稀にアホボケカスクソと思ったりすることもあるけど、まだしばらく頑張りたい気持ちもあって、いつも悩んでいる。転職だけじゃなくて、これから先どう生きるのか、何を大事にして何を捨てていくのか。それは当然そうなんだけど、20代後半になるとある日突然考えることが大量に現れていつの間にか背中が丸まって呼吸が重くなっていく。転職を選べないことと文章を書かないことがダブってさらに憂鬱な気分になる。お酒を飲みながら好きなように喋って、お店を変えてビールを飲んでビールを飲んで後はひたすら水を飲む。ひたすら水を飲んでひたすら飲んで飲んで10分に1回くらいトイレに行く。帰りの電車で残バッテリーが1%のスマホで音楽を聞いたりネットサーフィンをしたりする。電源が落ちる。やることがなくなってスマホの画面から目を離すと、斜め前にトリーバーチのロゴが光るエナメルの靴があった。その靴は輝いていた。目線を上げると座っていたのは50代前後の人だった。ピカピカに光るトリーバーチを履いているのはイカした社会人風の若い女性だと勝手に想像していた自分に衝撃を受けた。それからかっこいいと思った。すこし離れた席ではフェイスタオル越しに鼻をほじっている人がいた。何度も鼻をほじってからタオルを鞄にしまう。それなのにその人の唇に鼻くそがついていて、あ、と思った。降りる駅が来たので電車を降りた。(70分)